私の一冊

風塵抄

司馬遼太郎 著

中央公論新社(中公文庫)1994年7月刊

 司馬遼太郎による1986~96年の産経新聞朝刊の連載をまとめたもので、初版は91年。現在は文庫2冊にまとまって発売されています。64(『風塵抄二』と合わせると126)の事象についての短編随想集です。

 著者は「あとがき」で、風塵とは世間のこと、風塵抄とは小間切れの世間ばなしと解してもらえればありがたい。と題を説明した上でこう述べます。「ただ心掛けとしては、風塵のなかにあって恒心について書こうとしている。恒とはいうまでもなく、つね、あるいはかわらぬもの、ということで、恒心とはすなおで不動のものという意味である。ひとびとに恒心がなければ、社会はくずれる」

 現在の世界情勢を透視し言い当てているような、慧眼を感じずにはいられません。名著です。

私の一冊

職場の「感情」論

相原孝夫 著

日経BP・日本経済新聞出版本部 2021年3月刊

 出社して同じ職場というハコの中で一緒に働くことを前提とし、柔軟に役割を調整するメンバーシップ型の働き方が、このコロナ禍で難しくなる。

 リモートで情報を共有しようとウェブ会議を増やすのみでは、非言語情報は限られ、共有できる情報の総量は少ない。一方、メンバーにとっては監視されている意識が強くなり「やらされ感」を招く。そこで、個々に仕事を切り分けるジョブ型への移行が急務となる。

 単にリモートワークを進めると、ネガティブな感情が蔓延し、互いに疑心暗鬼になって、職場に悪循環が生じ、ジョブ型への移行も遠のく。結局、「感情」の問題に真っ向から向き合わなければならない状況となる。そんなときのヒントを、本書は紹介している。

新年のご挨拶

 2022年は36年に一度の周期で巡ってくる「五黄の寅(ごおうのとら)」の年です。

 寅には「動く」の意味があり、春が来て草木が生ずる状態を表していりると言われています。

 芽を出したものが成長していく年になりますよう、より一層お役に立てる製品・サービスをお届けできるよう努めてまいります。

 皆様のご多幸をお祈り申し上げますとともに、本年も倍旧のお引き立てを賜りますようお願い申し上げます。

私の一冊

人新世の「資本論」

斎藤幸平 著

集英社(集英社新書)2020年9月刊

 「マルクス」というと、共産党による一党独裁制を連想する人も多いと思いますが、彼自身は「共産主義」「社会主義」という言葉をほとんど使っていません。最終的には「人々の自発的な相互扶助や連帯を基礎とした社会」を意図していました。1867年に『資本論』第1巻を刊行するも、研究と思索を深めつつ未完のまま亡くなりました。

 「人新世」は「人間の活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代」という概念。マルクスは資本主義的な経済成長で問題解決を図るのとは違う可能性を、最も体系的に追求した思想家の一人です。資本主義の強固なイデオロギーを打破し、今とは違う豊かな社会への想像力、構想力を取り戻すきっかけをつくりたいものです。危機の今に読みたい、常識を破る衝撃の名著です。

わたしの一冊

「日曜日の万年筆」

池波正太郎 著

新潮社(新潮文庫)1984年3月刊

 ご存じ『鬼平犯科帳』シリーズの著者の、51のエッセーを集めたもの。この中に、1979(昭和54)年に書かれた「残心」があります。残心とは、「剣道で相手を打ち据えた後も気をゆるめずに相手の出方に心を残しておく」こと。転じてお客さまと別れる時、去り行く人の姿が見えなくなるまで見守ること。電話で語り終わってもなお、相手の様子をうかがい、「これでよし」となって初めて受話器を置くこと、などの諸例を挙げます。

 わずか6ページのエッセーですが、相手をおもんばかる心は、お客さまを見送る心の余裕もなく、電話は話が終わればガチャリと切る今の世の中。今を生きる人にとり、このエッセー一つを読むことが、温故知新につながると思います。

ありがとうをはっきり言おう!

 「日本人はどうして『ありがとう』と言わないんだろう。ドアを開けてあげて『お先にどうぞ』と言っても、めったに『ありがとう』の言葉が返ってきません。男性のほとんどは無口のままです」。2年ほど前、海外の人が日本滞在中に漏らした感想です。

 確かに日本人は「ありがとう」がなかなか出てきません。ぶっきらぼうな印象も残ります。失礼ながら、感謝するという気持ちがないのかもしれない、ついそう思ってしまいます。

 「イヤ、日本人の長年の習慣で、お互いが暗黙のうちに心の中では感謝しているんですよ」「でもはっきりと言葉で言わないと、感謝の気持ちは相手には伝わらないのではないですか」海外ではごく気軽に、どこでも「サンキュー」を言います。時には軽くウインクまでして、その場が和みます。

 日本人も、もっと気軽にこの言葉をはっきり相手に伝わるように言った方がよいかもしれません。そうすることで、日本の社会はもっともっと明るくなるように思います。

 1日に最低10回、いや20回以上は意識してこの言葉を口にするようにしてはどうでしょうか。職場の同僚に「ありがとう」「ご苦労さま」と、もっと気軽に声を掛けたらよいと思います。ご家庭の中でも同じです。夫や妻のご苦労に「ありがとう」と優しく言ってあげてはいかがでしょうか。

私の一冊

LIFESPAN 老いなき世界

デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント 著/梶山あゆみ 訳

東洋経済新報社 2020年9月刊

 著者のシンクレア氏はハーバード大学の教授で、老化研究の権威。「老化とは病気の一種である」を持論とし、老化は加齢と共に進行するのでなく、風邪や虫歯のように原因があり、その原因を取り除くことで治療できると、様々な研究結果を交え紹介されています。

 老化に関して特に重要なことは「食事」と「運動」で、中でも「食事」は「空腹の時間」を長くすることが健康につながるとのこと。本書を読んでから食生活を改め、1日1食生活を始めたところ、3カ月で体重が8キログラムも落ち、肌艶も良くなり、健康というものを全身で実感しています。

 読んで知識にするだけでなく、実践して体で書籍の内容を理解することができました。おかげでステイホーム中に、良い生活習慣が身に付きました。

雑感

 コロナ禍で暗い話題が多い中、福井駅東側の新幹線福井駅を覆っていた足場とシートの撤去が始まり、すっきりとした木調の新しい駅舎が顔を見せ始めました。私達にはマルセンと呼んで馴染みの有った大名町の繊協ビルも新しくなり、着々と変化していく福井を感じます。同時に駅西の再開発で取り壊されて更地になった三角地帯の中に見えてくる福井の顔が楽しみです。

私の一冊

エリヤフ・ゴールドラットほか原作

蒼田山 漫画/ダイヤモンド社 2014年12月刊

「ザ・ゴール コミック版

 業務全体の最適化で生産性を改善する理論TOC/制約理論」を漫画仕立てにした本で、主人公の会社で起きている現象(在庫が多いわりに納期遅延)が工場を分析・改善していくと、見る見る仕掛在庫が減り、納期達成率も向上、収益性も改善した。

雑感

12月6日は音の日です。1877年のこの日、トーマス・エジソンが世界で初めて蓄音機「フォノグラフ」を発明し、録音と再生に成功した日であることから、日本オーディオ協会により制定されました。蓄音機は、白熱電球・映写機と合わせてエジソンの三大発明と言われていてこの時録音された楽曲は「メリーさんのひつじ(Mary Had a Little Lamb)だったそうです。何かと慌ただしくなる12月ですが音楽を聴いてゆっくりとおうち時間を楽しむのもいいかもしれませんね。