私の一冊

巣鴨日記

正・続(合本新装版)

重光 葵 著

吉川弘文館 2021年11月刊

 東條内閣の外務大臣で、極東国際軍事裁判でA級戦犯となった重光葵が、昭和21~25年まで巣鴨プリズン(巣鴨拘留所)で書き残した日記は、昭和28年に文藝春秋新社より刊行。史料価値が高く、昨年復刊された。

 法廷でのやりとりのみならず、統師権の独立がもたらす日本の指導者層の対立や制度的二元性について、また関東軍を中心として作られた「虎の巻」なる計画で戦争に至った話など、権力の中枢にあった人たちの肉声を克明に記録している。

 この日記で、東西冷戦、日米関係の行方、戦後の中国問題、そして日本人の社会性をも鋭く洞察した重光が「天皇の意思を顧みず行動したるに依り今日の如き國家の破綻を招きたるにあらずや」と記した言葉の意味は重い。