私の一冊

吉田修一 著

文藝春秋(文春文庫)2015年5月刊

 台湾に日本の新幹線が走る。NHK土曜ドラマで、台湾新幹線完成までの工程が見事に映像化された。吉田修一の小説『路』。商社の台湾支局に勤める多田春香と、日本で働く台湾人の若手建築家・劉人豪(エリック)のすれ違い人生を軸に、二人を取り巻く日台の人々の、国や時を超えてつながる思いを描く。

 台湾生まれで戦後日本に引き揚げた葉山勝一郎は60年前、台湾人の同級生・中野に浴びせた言葉を心の闇としてきた。「お前は日本人じゃない。二等国民との結婚を曜子さんのご両親が許すだろうか」。妻に先立たれ、再訪した台湾で再会した中野は立派な開業医となっており、終末期を迎えた勝一郎に「この台湾で死ね」と、自分の病院に来るように勧める。

 台湾の人たちが日本を思う気持ちに、日本人はいつ気付くのか。