私の一冊

山岸 忍 著

文藝春秋 2023年4月刊

「負けへんで!」

東証一部上場企業社長VS地検特捜部

 東証一部上場企業の㈱プレサンスコーポレーションの創業者で、代表取締役であった山岸忍さん。大阪地検特捜部に業務上横領罪の嫌疑で逮捕・起訴されたが、無罪判決が確定した。その事件についての、詳細な手記である。

 248日間にも及ぶ勾留生活の苦しさ、無罪判決を得るまでの心の動き、代表取締役を辞任し、プレサンス社の株式を売却せざるを得なくなった状況が記され、冤罪の恐ろしさがよく分かる。

 また、思い描いた構図を修正することなく突き進み、客観的証拠の検討を怠って関係者に対して無理な取り調べをした特捜部。そこからは、組織が陥りやすい問題として学ぶところが多く、経営者にとって示唆に富む一冊である。

12月22日は冬至

12月22日は冬至です。太陽の位置が最も低くなる日で、北半球では、一年間で最も昼が短く夜は長くなるのだそうです。冬至といえば柚子湯の印象が強いですが、「冬至の七種(ななくさ)」と呼ばれる食材があるのをご存知でしょうか。「なんきん(かぼちゃ)・れんこん・にんじん・ぎんなん・きんかん・かんてん・うんどん(うどん)」の7つで、すべて「ん」が2つ付いていて、食べることでたくさんの運が呼び込めると言われています。今年は冬至「冬至の七種」を食べて運をつけ、柚子湯に入り体を温めて、寒い冬を乗り切っていきましょう。

私の一冊

裁判官も人である

良心と組織の狭間で

岩瀬達哉 著 講談社 2020年1月刊

 本書を読むと、わが国の司法制度に対し、暗澹たる気分になるかもしれない。それでも推薦するのは、司法をより良い制度にするためにはまず実態を知らねばならず、その上でこの本は避けて通れないと確信するからだ。

 世の中にはさまざまな組織があり、それぞれに必ず陰陽がある。司法界も例外ではない。特別に見える司法界も人間の集まりであり、官僚組織の一形態である。その判決に喝采を浴びる日もあれば、怨嗟が渦巻く日もある。そもそも自由意志の下で、これが最善であるとの本心が投影されたものなのか。本書を読むと、そうではない場合が多々あるとしか思えない。

 最後に帯の言葉を引用して締めたい。「あなたに人が裁けるか?」

「ひつじ雲」

 小さなかたまりが沢山集まった雲を「うろこ雲」や「いわし雲」、かたまりが少し大きく見える雲を「ひつじ雲」と呼びます。見分け方としては一差し指を立てて腕を空に向けて伸ばし、一つは雲が隠れるほど小さければ「うろこ雲」や「いわし雲」、指先からはみ出る大きさならば「ひつじ雲」だと言われています。秋は、移動性高気圧と低気圧の繰り返しで、乾燥し水蒸気が少なくなることで空気の透明度が高くなり、空が一段と高く見えるそうです。慌ただしい日常を忘れ、時には立ち止まって、澄み渡った空を見上げてみませんか。

意外と知らない日本酒の話③

 国内でも日本酒の品評会がありますが、国外でもコンクールが開催されます。フランス「Kura Mastur」では、食と飲み物の相性に重点を置いた審査、イギリスで行われる「International Wine Challenge SAKE部門」では製造規制を基盤にして独自の分類を行い審査が行われ、世界の人にもなじみがあります。

意外と知らない日本酒の話②

 酒造りにおいて、それに従事する杜氏や蔵人といった人の仕事も大切ですが、最もたくさん、かつ長時間働いているのが酵母菌です。顕微鏡を使うと実際に見ることができますが、お酒の醪には1g当たり平均して1億5000万個くらいの酵母が働いています。1tぐらいのお米を使って、3000~4000ℓくらいの醪を仕込むと、計算すると一つのタンクの中で約500~600兆個の酵母が働いていることになります。酒蔵では毎日、蔵人によって600兆もの酵母たちが24時間体制で休まず働いてお酒を造っています。

意外と知らない日本酒の話①

 日本酒は、国税庁公示で「原料の米に国内産米のみを使い、かつ、日本国内で製造された清酒に限り『日本酒』と表示してもよい」と定められています。従って、外国産の米を使ったり、外国で製造したりした「清酒」は、「日本酒」と表示できないのです。

 今から10年ほど前、日本とEUが相互の関税撤廃を図って経済を活性化しようと、経済連携協定の交渉を始めたのですが、その過程でEUの地理的表示である「ボルドー」や「シャンパーニュ」といった原産地呼称を日本国内でも保護しなければならない、ということになりました。日本も日本産酒類のブランド価値向上などの有効な地理的表示の活用促進を図るため、お酒や農産物の地理的表示制度が急きょ整備され、2015年、国レベルの地理的表示として「日本酒」が指定されたのです。

私の一冊

百田昌史 著

現代書林 2022年8月刊

歯科医だからわかった

睡眠呼吸障害の治し方

 歯科医である著者は長崎県の壱岐の人。口の機能の衰えが原因で睡眠時無呼吸症候群に陥り、夜間の呼吸困難で中途覚醒、狭心症、高血圧、不整脈、頻脈、肩凝りなどさまざまな自律神経疾患およびパニック障害まで経験。主治医から「突然死しやすいタイプ」と言われ、病因が口腔周辺にあるということで自ら研究し、本書の上梓に至った。

 睡眠呼吸障害は日本人の約2200万人、5人に1人が罹患し要治療は300万人、実際に治療を受けている人が約40万人、循環器疾患、代謝疾患から精神疾患まで引き起こし、「病の起源」ともいわれる。病因が確定できず、ドクターショッピングを重ねるケースも多い。その実態と治し方について、本書で詳細に解説している。

私の一冊

「2040年の日本」

野口悠紀雄 著

幻冬舎(幻冬舎新書)2023年1月刊

 「20年後が分かると、”いま”やるべきことが見えてくる!」と、帯のキャッチコピーにあります。未来を知ることは、興味と不安が背中合わせなのではないでしょうか。現在は、非常に速いペースで技術革新や世相が変化していますが、これからの20年はもっと速く、しかも大きく変わる時代になるでしょう。

 その時代を迎えるまでの間、そして迎えた時のために今、何をしておくべきかを、「第1章 1%成長できるかどうかが、日本の未来を決める」から「第9章 未来に向けて、人材育成が急務」まで、多角的に解説。60年近く日本の未来を考え続けた著者が、多くの資料を基に、約20年後の指針を示しています。巻末にはキーワードを列挙した索引も。ぜひ一読してほしい一冊です。

私の一冊

牧野富太郎 著

KADOKAWA(角川ソフィア文庫)2022年6月刊

「草木とともに」牧野富太郎自伝

 書店でNHK連続テレビ小説「らんまん」で話題の植物学者・牧野富太郎氏の自伝を目にした。氏は幕末の土佐に生まれ、小学校中退ながらも独学で植物学を修め、『牧野日本植物図鑑』など多くの著書を残し、94歳の天寿を全う。後に文化勲章も授与されている。

 自伝からは学者としての探求心がひしひしと伝わってくる。関東大震災の体験談や、間違っていると思えば学会の重鎮にも歯に衣着せず意見するなど、驚嘆の連続。「植物は人間がいなくても、少しも構わずに生活することができるが、人間は植物がなくては一日も生活することができない」との一文は、人類も地球上の生物の一つに過ぎない、人類よおごるなかれと諭し、SDGs達成には程遠い今のわれわれの生活様式に警鐘を鳴らしている、と捉えたい。