越前水仙に想う

 水仙は、正月用の花として根強い人気がある。越前の水仙は福井県の郷土の花である。冬ともなれば日本海は荒海となり表情が険しく鉛色の雲が垂れる。その海を真近に水仙は寒風に吹きさらされながら清楚な美しさと香りを放っている。
 海岸沿いの崖に連なって咲く水仙の部落に心ひかれる。カメラマンにとって絶好の場所で多くの人が訪れる。沿岸を流れる対馬暖流と寒流が合流して冬は県内でも最も暖かい地方である。海岸沿いの越前町梅浦から岬の上へ急な坂を登っていくと水仙畑が現れる。急な斜面を見下ろす真下は海である。斜面を這うように又は横歩きしながら重心とり鎌で水仙を刈り取って背に負った筒に入れて進む。
足を踏みはずしたら海まで真っ逆さまである。寒風に手をさらしながら縮かむ手を擦るひまもない。
 清楚で気品のある水仙畑を見るにつけ急坂を登り降りする過酷な労働を支えてきた越前女の辛抱強さをそこに見る思いである。